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2011年8月15日 (月)

佐藤正久議員と映画『名誉と栄光のためでなく』

 佐藤正久参議院議員ら3名の国会議員が韓国から入国拒否された騒ぎがあった日、ケーブルテレビで映画『名誉と栄光のためでなく』(1966年米国、アラン=ドロン、アンソニー=クイン、クラウディア=カルディナーレ主演)を観た。終わりの字幕には、映画の原題が『Lost Command(失われた指揮権)』であると知り、この一文を書くことにしたのである。

◆失われた指揮権

 映画の原作は、フランスの作家ジャン・ラルテギーによる、実在の人物からの聞き書きを基にした小説『百人隊長』だという。が、映画のタイトル『Lost Command』は、いろいろと解釈はできるだろうが、失われた指揮権とか、だいたいそういう意味だろう。

 議員に当選してからの佐藤議員の言動や、そのオトモダチの田母神俊雄・元航空幕僚長らの言動を思い出したのである。

 当選直後の佐藤氏は、イラクに駐留しているときに、正当防衛でないと反撃できないから、警備のふりをして(戦闘に)巻き込まれてやろうと考えていたと発言した。おまけにそれで裁かれるなら喜んで裁かれてやろうと開きなおったのである。多くの人はもう忘れているだろう。

 これは、昭和初期に関東軍が東京の意向などおかまいなしに謀略を起こし、そのまま戦争に突入、日本は破滅の道をたどった。これと同じことを佐藤議員はやろうとしていたのである。まったくのLost Command 、暴走である。しかも国会という立法府にいながら、日本の法律で裁かれるなら喜んで裁かれてやろうと言っているのだから、それだけで議員辞職に値する。そして彼は主権者にたいして謝らない。

 なお、本題からそれるが、彼が立候補を正式に表明し自民党の比例代表区支部長に就任して以降、各地の自衛隊施設で講話(事実上の選挙キャンペーン)の謝礼金が少なくも30数回にわたって支払われている。民主制を根本でささえる選挙に重大な疑義があるのである。

 私たちのような貧乏人が汗水たらして稼ぎ、ぎりぎりの生活から差し引かれた血税が、特定政党の特定の候補予定者の選挙演説に提供されていたのだ(fotogazetフォトゼット)創刊号に記事を書いた。18歳のころから税金で飯を食い、23歳のころから優遇されて退官時には高給を食み、いまも平均的勤労者の7倍くらいの実質収入のあるこの方には、その痛みはわからないであろう。

 本題に戻る。イラクで佐藤氏が考えていたことは、まさにLost Commandだが、この”わざと巻き込まれて戦闘行為(反撃)”というのが、自衛隊最上層部が決め、なおかつ時の政府がそのように方針を決めていたすれば、一人のLost Commanにとどまらず、政権全体が指揮統制を失っていると見なければならないだろう。

◆エスカレートする軍人

 映画は、インドシナ(ベトナム)の独立運動弾圧で活躍した将校アンソニー=クインが帰郷するところから始まる。ひなびたフランスの田舎の農家で老いた母親が彼を迎える。平凡などちらかといえば貧しい農民出身であることが、このシーンからもうかがえる。

 そのアンソニー=クインがフランスからの独立運動(1954-1962)が展開されているアルジェリアに派遣され、「活躍」する。部下の大尉(モーリス=ロネ)とともに、住民虐殺や徹底した拷問で弾圧しアルジェリア民衆を抑圧していく姿が描かれている。とりわけ、モーリ・ロネ扮する将校は、拷問など凶暴な手法を駆使していく。

 そのなかで虐殺の件以外でLost Commanロストコマンドここに極まれり、というシーンがある。将校のひとりアラン=ドロンが憲法違反だと反対するが、アンソニー・クインは、地元の警察署を襲撃する。1830年からフランスはアルジェリアを植民地しているから、長年にわたる独立運動や民族主義者たちの情報が警察には蓄積されている。

 このような捜査は警察の仕事だが(いいとはいえないが)、武装兵を警察に送り込んで無理やり大量の資料を押収する。それによって、過去長期間に独立を訴える活動家や言論人膨大なデータを略奪。これを利用して片っ端から関係者を逮捕して拷問にかける・・。

 こうなると歯止めが効かない。

◆現地軍人らの暴走で植民地帝国フランスは終焉

 こうしてアルジェリア現地に派遣されたフランス軍と植民者(アルジェリアに移住定住したフランス人)と極右秘密軍事組織(OAS)が絡み合って、テロと弾圧を繰り返す。もちろん、アルジェリア民族解放戦線らかの反撃も活発化した。

 独立戦争だから、おおまかな構図ではフランスVSアルジェリアとなるだろうが、実際は、本国政府は徐々に和平の方向に向かうので、アルジェリア現地のフランス軍・植民者・極右テロ組織が反乱する。①フランス政府+フランス軍幹部②アルジェリア現地フランス軍・植民者・極右テロ組織の三つ巴の戦争になりかねなかった。

 フランスは内戦の一歩手前まで行きそうな雲行きだった。日本にたとえるなら旧満州の関東軍と日本軍主流と中国の抵抗勢力の三つ巴になるような感じである..

 このような状況で悲惨な結果がもたらされた。今回取り上げた映画とは別の『命の戦場・アルジェリア1959』(仏制作2007年)のエンドロールによると、フランス軍人の死者2万8千人、アルジェリア人の犠牲者30万人から60万人という大惨事を生んだのである。

 こうして、”フランス帝国”は他の植民地をつぎつぎと失い、アルジェリア戦争でも敗北してアルジェリアは独立を勝ち取り、植民地帝国としてのフランスはとどめを刺されたといえるだろう。

◆人民と国を大切にしない軍人

 この映画を見ていて、アンソニー=クインやモーリス=ロネらが演じる軍人と、佐藤&田母神は本質的に同じであると思った。ただイラクで佐藤議員は、たまたま?実行しなかっただけで、実行するつもりだったと本人は述べているのである。

 軍人のメンツとその権益拡大だけを重視して自己正当化し、国民・市民、そして10年後20年後の国のことを考えないから、謀略を考えていたなどとぬけぬけとしゃべってしまったのだ。 

 そんな佐藤氏らが、日韓で領有権を争う島の視察問題で韓国入りしても、私はドス黒い思惑を感じてまったく共感しない。外交官とか外交の専門家たちは、あれこれと理屈を述べ解説するであろう。

 しかし私からすれば、3人の議員たちは、日本列島に住む住民と国の行く末を本当に考えての行動とは、私にはとうてい思えない。

 本来、このような事案を統制・指揮・統括するのは政府だとは思う。しかし、心ある士民が、最大限の警戒をしておごり高ぶった軍人や権力者たちを監視していかなければ、膨大な犠牲の上にまがりにも築き上げてきた民主国家は、いつのまか崩れ落ちていくだろう。

 そうならないために、私は小さな声をあげていこうと思う。

  66回目の終戦記念の日(注) 2011年8月15日 林克明記

※(注)支配階級とその追随者にとっては「敗戦」だが、一般民衆にとっては「終戦」である。

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