『冬の兵士~イラク帰還兵の証言』監督インタビュー
「有名なジャーナリストほど危ない」。昨年に完成した、イラク帰還兵の証言を中心にしたドキュメンタリー映画『冬の兵士』の監督である田保寿一氏のことばである。同感だ。「週刊金曜日2009年12月18日号」に掲載したインタビューを掲載する。
「権力を乱用した明らかな専制政治が行われたとき、その政府を倒すことは、人民の権利であるとともに義務である」。
イラク帰還米兵がアメリカ独立宣言の一節を読み上げる場面から、映画『冬の兵士~良心の告発』が始まる。反戦イラク帰還兵の会に加盟する兵士の証言を核にしたドキュメンタリーだ。
「マスコミは真実を報道しない。だから自分たちがイラクでの体験と目撃を語るのだ、とアダム・コケッシュ元軍曹は映画の中でも強調しています。開戦前、ニューヨークタイムズのジュディス・ミラー記者がチェイニー副大統領の首席補佐官からイラクの大量破壊兵器(核開発)の情報を得て記事を掲載。他の新聞や著名なジャーナリストも危機感を煽りたてました」
――チェイニーはその記事を指して「確実な情報だ」と世論を戦争へ誘導した。つまり権力とマスコミによる自作自演です。
「著名なジャーナリストほど権力者に近付きたがり、彼らから得た情報をスクープと思い込む。これは日本も同じでしょう。こうして開戦までは主に新聞が戦争を扇動し、開戦からは映像のあるテレビに主役が移ります。
軍のエンベット(はめ込み従軍)取材が住民虐殺の隠蔽工作として使われている。たとえば、兵士は交戦規定を守るように指示されますが、記者がいない場合は守らなくていいとなっています。それで記者は騙される」
――映画の中でも、交戦規定がどんどん変えられて守られていないと兵士たちが証言していますね。それどころか、7歳の女児を殺したとか、車に乗った一家を殺したとか、罪もない人を虐殺している事実が延々と証言されていきます。
「一言で言うと、彼らは戦争のやり方を証言している。相手を識別できないから最初から無差別殺戮なんです。実は当初は、証言に加えて、イラク現地の映像をたくさん挿入していました。映像は分かりやすい。そこが落とし穴です。テレビ映像の中に真実はなく、だから敢えて現地映像を抑えて証言をクローズアップしました。
絵(映像や写真)そのものが真実の隠ぺいのために使われることもある。湾岸戦争(91年)時、原油まみれになった水鳥の写真を英国のジャーナリストが発表したところ、アメリカはフセインがわざと石油施設を破壊した結果だと世界に訴えました。
しかし私は現地に行き、アメリカ軍の爆撃で施設が破壊された結果だと報道しました。現地に行けば何かしら得られる。イラク侵略の理由とされた大量破壊兵器にしても、当局が嘘だと発表する前に核施設に行って稼動していないことを見ました」
-―今度の映画をテレビ放映したら、衝撃的ですね。
「最初は、テレビ用に取材しようと思っていました。しかし、イラクで市民が虐殺されている事態を伝えたいと言っても、テレビ朝日の担当者は『田保さんは反米だから・・、偏見であってそんな事実はない』と言われました。それならアメリカ兵に聞こうと思い立ったのがこの映画の出発点です。もう民放での報道は難かしいでしょうね」
タイトルの「冬の兵士」とは、アメリカ独立戦争に参加した思想家トーマス・ペインの言葉に由来し、困難に立ち向かう本当の愛国者のことを指す。ベトナム戦争当時も「冬の兵士」という証言集会で戦争の実態が告発された。あるイラク帰還兵が田保氏のことを「日本の冬の兵士だ」と評したという。
田保寿一(たぼ・じゅいち)1954年富山県生まれ。写真家を経てテレビ朝日契約ディレクターに。91年に取材した「水鳥問題」を扱った番組がギャラクシー賞受賞。03年からフリー。
「冬の兵士」への問い合わせ冬の兵士 良心の告発公式サイト http://wintersoldier.web.fc2.com/
DVD(3000円)注文は
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