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2009年1月15日 (木)

マスコミのガザ攻撃報道はおかしい!

 イスラエルによるガザ市民への大規模テロ攻撃は度を越している。これを報道するメディアにも疑問がある。それどころかねつ造に近いのではないか。と思っていたところ、パレスチナ取材40年のキャリアをもつフォトジャーナリストの広河隆一氏が、DAYS JPANに書き、マスコミ各社に送った文書を送った。それを全文掲載したい。

DAYS JAPAN編集長 フォトジャーナリスト
広河隆一

ガザ報道に携わるメディア関係者及びその報道に接する人々へ

私はこの40年間、中東問題を専門に取材・発表してきました広河隆一といい
ます。岩波新書「パレスチナ新版」、「広河隆一アーカイブス・パレスチナ
1948NAKBA」DVD(30巻・45時間)を発表し、月刊誌「DAYS
JAPAN」の編集長をしています。

私は今回、メディアのガザ報道について、看過できない点が多くあり、大勢
の人々が亡くなっている事件でもあるため、それについて私の意見を申し上
げたくて、この文章を書きました。

1 イスラエルによるガザ攻撃の原因はハマスが作ったという報道について。
「ハマスは自爆テロで90年代から数百人のイスラエル人を殺害、ガザからイ
スラエルへのロケット弾攻撃をくり返し、イスラエル軍の報復攻撃を招い
た」(朝日新聞2009年1月6日 時時刻刻 きょうがわかる 「なぜガザを
狙ったのか」)

2  地球防衛家のヒトビト(朝日新聞4コマ漫画2009年1月8日)
内容は、まず小さな子が大きな子に「コノヤロー ポカ」と殴り、次のコマ
で大きな子が「あっ いてー やったなー おかえしだーっ ポカ」と殴り
返し、それを大きな子の父親が見て「ワッハッハ」と笑い、3コマめでその
父親が「相手が手を出してきたら100倍にして返してやれ」「ワッハッハ」
と笑い、4コマめで、ポカポカ殴り続ける大きな子とあおる父親を見て、
「まるでアメリカとイスラエルのような親子だな」と夫が言い、妻が「笑っ
てないで止めてやりなよ」というと言うものです。
この漫画はよくできていると思いました。しかし最初に手を出すのが「パレ
スチナ側」と描かれています。

こうした考えは、朝日新聞だけでなく、ほとんどのメディアに共通していま
す。イスラエルは自爆攻撃やロケットの攻撃で大変な犠牲を払い、たまりか
ねて今回の空爆と侵攻に及んだ、となっています。

 しかし事実はその通りなのでしょうか。アメリカ政府も「ロケット弾攻撃が中止されない限り、イスラエルは攻撃を停止する必要がない」と言ってきました。朝日の解説記事では、自爆攻撃がハマスのせいのように書かれていますが、実際のところ自爆攻撃はハマスだけでなく、ファタハやそのほかの勢力によっても行われました。

 またそれらの自爆攻撃も、いつも理由なしに殺戮を目的として行われている
わけではありません。日本のメディアは「自爆テロ」と呼びますが、「自爆
テロ」という言葉は、日本の造語で、英語では「自爆攻撃」「自殺攻撃」と
呼びます。攻撃対象が占領地の中のユダヤ人入植地や検問所のイスラエル兵
であった場合などは、海外では「テロ」とは呼ばない場合が多いのです。も
ちろん市民を対象とした自爆攻撃も多くあり、それがテロであることは言う
までもありませんが、その引き金をイスラエルが引いた例も多くあります。
つまりパレスチナ側がイスラエルに殺害されて、その復讐で自爆攻撃を行っ
た場合が多いのです。

 だからイスラエル人が一方的にハマスの暴力にさらされてきたという解説の
し方は、占領という暴力の中で、大勢のパレスチナ人が殺害されてきた事実
関係を調べていないことになります。

 次にロケット攻撃の問題です。今回のガザ攻撃の理由となったのが、ハマス
のロケットであると、各紙、テレビ局が報道しています。しかしイスラエル
がロケット攻撃を一方的に浴びたかのような朝日新聞の解説に反して、ガー
ディアン紙、AFP通信、ロイター通信などは、砲撃がイスラエル軍の挑発
によるものだった例を報じています。

 たとえばAFP通信を紹介しましょう。
「イスラエル軍が(2008年11月)4日夜から5日朝にかけてガザ地区に
侵入し、ハマスと戦闘になり、ハマス6人が殺害された。その後イスラエル
軍の空爆により、ハマスにさらに5人の犠牲者が出た。ハマスは4日から5日
にかけて、ガザ地区からイスラエル南部に向けて、ロケット弾と迫撃砲弾合
わせて53発を発射したと発表した」(2008年11月5日、AFP通信)

「(2008年12月)23日夜にパレスチナの戦闘員3人がイスラエル軍に
射殺されたことを受け、パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラ
ム原理主義組織ハマスなどが、23日から24日にかけて、イスラエル領内に向
けてロケット弾70発以上を発射した。イスラエルとパレスチナ当局者による
と、ロケット弾の一部はガザの北13キロのイスラエル・アシュケロンの住宅
などに着弾したが、負傷者はいない」(2008年12月25日、AFP通信)
 
 ではロケット弾で、イスラエル側に大変な犠牲が出ているために、今回のガ
ザ攻撃が行われたかのように伝えられている点については、正しいのでしょ
うか。それほどハマスのロケット弾はイスラエルに多大な犠牲を与えたので
しょうか。

 パレスチナ側の犠牲者について述べると、2006年1月のガザにおけるハマス
の政権支配以降、今日のガザ空爆直前までのイスラエルの攻撃によるガザの
パレスチナ人死者数は、446人です(英ガーディアン紙)。一方のイスラエ
ル側は、ロケット弾でどれだけの犠牲者を出したのでしょうか。
 

 同じ時期、2006年1月以来、今日のガザ空爆直前までのガザからのロケッ
ト弾によるイスラエル人の死者数は、イスラエル首相官邸ホームページを見
ると次のとおりです。http:
//www.pmo.gov.il/PMOEng/Communication/IsraelUnderAttack/attlist.html
(場所の名前をクリックすると、詳細が表わされます)
 2006年11月21日 1人
 2007年 5月21日  1人
       5月27日  1人
 2008年 2月27日  1人
        5月12日  1人
                 計 5人 
 

 このほか迫撃砲により2004年から2008年12月までに2人が死亡しているとい
うことです。また同時期の負傷者数は、同じイスラエル首相官邸のホーム
ページでは1人でした。特筆すべきは、イスラエル空爆までの半年間に、ハ
マスのロケット弾による死者は1人も出ていないということです。

 ロケット攻撃がイスラエル人にとって恐怖でないと言うつもりはありません
が、それを記事にするなら、大勢の犠牲者を出し続けたイスラエルのミサイ
ルや砲撃、爆弾にパレスチナ人がどれほどの恐怖を抱いてきたかについても
言及すべきでしょう。パレスチナ人446人が殺害されているときにイスラエ
ルのロケット被害が5人であった情報を得ることは困難ではありません。イ
スラエル首相官邸のホームページを見ればいいのですから。

 それなのにハマスのロケット攻撃がイスラエルをガザ全面攻撃に踏み切らせたと解説するのは正しいのでしょうか。パレスチナ側に千人近い犠牲者を出さなければならないほどの被害をイスラエルは受けたと言えるのでしょうか。

「ロケット弾攻撃を繰り返し、イスラエルの攻撃を招いた」という解説、す
べてハマスがまいた種、責任はハマスにあるといわんばかりの解説を、大手
メディアが行っていいのでしょうか。

 さらに言えば、ガザの報道をするときに、そもそもなぜこんな問題が起きた
のかを、きちんと解説するメディアが非常に少ないことは、残念です。この
間のガザ封鎖がどれほど非人道的なことで、人々はどれほど追い詰められた
生活をしていたか、1967年から始まるイスラエルによる占領支配、そしてさ
らに1948年のイスラエル国家建設とパレスチナ難民発生(アラビア語で「大
惨事」を意味するNAKBAという)から問題を説き起こす記事が非常に少
ないのにも驚かされます。

 ガザの犠牲者たちのことを正しく伝えなければならないメディアが、攻撃す
る側に追随したと思われても仕方ない報道をし、しかも問題の原因を無視し
ている状態では、情報を受け取る側は、正しい判断ができなくなると思うの
です。このような状態では、攻撃による被害者をどのように報じようと、大
手メディアはイスラエルの攻撃と殺戮をどこかで後押ししているといわれて
も仕方がないのではないでしょうか。

 ガーディアン紙の報道(2009年1月12日GMT7時49分)によるとパレスチナ
人死者は少なくとも884人(うち半分は女性と子ども)、イスラエル人死
者は13人(うち市民は3人)となっています。

 この文章は、DAYS JAPANブログに掲載するとともに、メディア各
社報道部・外信部にファックスさせていただきました。

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