「武家用心集」乙川優三郎
7月12日の土曜日、ブックオフで集英社文庫の『武家用心集』(乙川優三郎著)を買った。220円だったが、読み始めてみると、わたしにとっては1万円くらいの価値があった。金持ちには一万円はたいしたことないと思うが、私にとって、本一冊1万円というのは、相当な価値だ。
◆私は普段、小説は読まないのに
それにしても、不思議だ。なぜこの本を買ってしまったのだろう。私は基本的に小説は読まない。ドキュメント・評論・ルポルタージュ・資料のたぐいしか普段は読まないのである。だから、この本の著者の乙川優三郎も知らなかった。
土曜日、少し時間ができたので自転車に乗ってブックオフまで行った。写真がたっぷり載っているインテリア雑誌がないかと思ったからである。写真が充実していると高いので、古本で探そうというわけだ。
住んでいるアパートの内部を変えてみたいとずっと思っていて、参考になる集合住宅の改造例を見てみたいと思ったのである。食堂兼居間の壁をつくりつけの本棚にしたい、間接照明を主体にしたいな、だいぶ前に壊れてしまった長椅子の修理と布の張り替えはどんな柄や生地がいいのだろうか。
狭い部屋なのだから、あまりクラシックな感じにすると狭苦しいから白やアイボリーを基調にしたほうが良いのだろうか・・。そんなことを考えて適当な雑誌や本を探していたのだがみつからない。
◆江原啓之の本のすぐ近くに置いてあった
せっかくきたのだから、200円か300円くらいでいい本があれば買っていこうと本棚を見ていると、江原啓之の本が眼にとまった。なぜ彼の本が眼にとまったかというと、ほんの二日前に、市民連帯主催で「スピリチャルブームの問題点」というミニ講演会プラス懇話会のようなものを開催していたからだ。
「あんなものはインチキだ」「心の問題は避けて通れない」「魂の不滅を信じている」「江原氏の言っていることと、便乗商法など周辺のことははっきり分けるべきではないか」などと話し合ったことを思い返していた。
そして江原氏の一連の文庫本が並ぶそばに並べられていた表紙が『武家用心集』(乙川優三郎・集英社文庫)だったのだ。
◆普通のひと、普通の日本語、普通の暮らし
読み始めると、中身にすぐにひきつけられてしまった。短編集なのだが、文体が落ち着いていて心地よい。解説には「美しい日本語」と書かれていたが、私の感覚では、「普通の日本語」だ。
登場人物も、「普通の人」で「普通の生活」を望んでいるところがいい。そして「普通の日本語」を話している。普通というのを「まっとうな」という言葉に置き換えていいかもしれない。
下級武家の女が、障害者の実母を嫁ぎ先の家にひきとって介護する短編もある。この女の心理、妻の実母を引き取ることになった夫の心、女の兄とその嫁との確執・・。いまでもありそうなストーリーの中で、人間の感情や心が動いていく。
あるいは、藩の権力闘争に巻き込まれた、かつて失敗してひや飯を食っている武士の話。権力闘争のなかで思いがけずに成功するが、あえて静かな余生を送ろうとする・・。このような短編がつまっている本だった。
ごく普通の日本語表現に惹きつけられるのだ。ということは、今の世の中が、まっとうな日本語表現とは違う世界になってしまっているということだ。
スピリチャルブームについての講演会の後に、この本に出会った。MyNewsJapanに「検証スピリチャリズム」というジャーナリストグループによる取材のために『スピリチャルな人生に目覚めるために』という本を読んだのが、生まれて初めて読むスピリチャリズム本だった。これから取材するのに、何も読んでいないのはまずい思い、スピリチャリズムの基本や、この分野で有名な著者・江原啓之氏の考えを知ろうとしたからだ。
信じるとか信じないとか、霊が見えるとか見えないとか、あるいは当たるとかはずれるということは、私にはあまり興味がない。実際、私にはそのようなものは見えない。漠然と、人智が及ばない世界とか、合理的科学的説明が不可能なものが存在すると思っているだけである。
『スピリチャルな~』を読んで、参考になる部分もあるなと思った。たとえば、「この世にそれぞれの人が使命をもって生まれてくる、世に起きることはすべて意味がある。(ということはすべての人に意味がある)。人生は人格(霊格)向上させることに意義がある・・」など。そう思っている過ごすぶんには、カネもかからないし。
そのような、いいところを実践していると、たぶん『武家用心集』の登場人物のようになるのではないか、そんなことをふと思ったので、この一文を書いてみた。
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