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2007年11月 6日 (火)

予告(後編)「トヨタの闇~利益2兆円の犠牲になる人々」

 「トヨタの闇~利益2兆円の犠牲になる人々」。前回は、共著者であるMyNewsJapn 代表の前書きを掲載した。後編は、私の前書きである。本書にとりあげた様々な問題が解決されて、現場で働いているひとが普通の生活を送れるようになれば、と思う。それにしても、トヨタは日本的、日本の大企業の労使関係を象徴している・・。

 ◇『破滅へと向かう旧日本軍』にならないために(単行本おわりに)

 

 

 たとえば、路上にバナナの皮が落ちていたとしよう。うっかり滑って転び、頭でも打ったら大ケガをしかねない。だが、「危ないよ」という声を無視し、バナナの皮に向かって歩んでいるのが、いまのトヨタ自動車ではないのか。

 トヨタは、世界一の自動車メーカーになった。その原動力は、一分一秒、一ミリの隙も見逃さない徹底した効率優先主義にある。そして、失敗がないことを前提にシステムが確立されている。しかし、そこで働くのは人間である。いくら技術革新されたところで、生物としての人間そのものは昔と変わらない。機械のようにはいかないし、風邪で体調を悪くすることもあれば、失敗もする。

 だが、これらを無視しているのが「トヨタシステム」である。したがって、超合理主義に見えながら、実は非合理的システムだともいえる。にもかかわらず、例外を除いて内部告発はなく、マスコミなど外部からの批判もないために、社内の思想統制によって現在のシステム=体制が温存され、大きな自己改革も起きていない。

 本来的に無理なことをしているのだから、このまま続けば、いつか破綻をきたすだろう。世界のどこで、どういう形で起きるかわからないが、そう遠くない将来に大問題を起こすのではないかと私は見ている。

 本書を取材執筆しているうちに、私の頭に浮かんできたのは旧日本軍である。日清戦争以降、大日本帝国の膨張とともに軍も肥大化し強権化していった。とくに日露戦争辛勝以後、軍の残虐性は増し、人間(兵士)を機械に変えることが徹底して推進され、兵士(社員)を疲弊させ、外部には残虐行為を行った。「負けてはいけない」(失敗してはいけない)と徹底的に兵を追い詰めた。そして勝者が敗者を完全制圧し、敗者が勝者に全面屈服するという戦争観が強かった。

 一方、ヨーロッパなどでは、戦争で勝ち負けを繰り返して国境線も変わり、駆け引きによる“半勝利”と“半敗北”は当たり前。そのうえ何度も革命を経験しているだけに、「バナナの皮が…」などと権力者に都合の悪いことを言う国内の反対勢力や外国勢に、「負けることもあり得る」という考えがある。つまり、頭の片隅でバナナを意識している、といえるのではないか。実に狡猾であるが、取り返しのつかない大失敗を防ぐための経験的知恵だ。

 もちろん日本にも、「このままだと転ぶからバナナの皮をかたづけよう」「いや、それより迂回したほうが早い」と指摘するまともな軍人や、外部の批判者もいた。しかし、軍・政府は批判者を徹底的に弾圧したあげく、昭和20年8月15日に向かって破滅の道を歩んだ。バナナの皮は、撤去されなかったのである。

 とはいえ、トヨタ関係者のなかからは、少ないながらも「バナナの皮」に目を向けさせてくれる人々が出てきた。本書でとりあげた、過労死した社員の妻・内野博子さん、デンソーの北沢俊之さん、闘う労働組合の若月忠夫さん、偽装請負を告発した矢部浩史さんたち、そしてリコールの数々。

 それらは、バナナの皮=危険、を知らせる重要な役割を担っている。せっかく提起された様ざまな問題を放置しておいたら、トヨタという会社も社員も消費者も、危なくなるのである。本来ならトヨタ経営陣は、彼らに感謝状を贈らなければならない。

 そして、声を上げて一歩を踏み出したことで、ほんの少しとはいえ会社も変わってきた。たとえば、過労死裁判が進められるなかで、トヨタ本体は月45時間の残業に抑えるようになったという(正確な実態は未確認)。

 またデンソーのパワハラ裁判の影響で、それまで心身を病んで退職したり自殺する人に有効な対策をとってこなかった会社側が、多少なりとも配慮するようになった。それは北沢さんが意を決して立ち上がったからである。同じように、たった15人でも若月忠夫さんを中心に全トヨタ労働組合が結成された。これも確実な一歩である。

 トヨタの労使関係は、産業界に大きな影響力がある。若月さんの言葉を借りれば「トヨタが変われば日本が変わる」。だからこそ、声を上げ始めた人々の役割は貴重なのだ。

 最後に、様ざまな人びとの協力によって本書を世に出すことができたことを一言記しておきたい。出版に同意してくれたビジネス社と担当の石川明子氏。ストリップショーの記事で協力いただいたルポライターの諏訪勝氏、同じく偽装請負の記事で協力いただいたジャーナリストの伊勢一郎氏らに感謝します。

 なによりも、この本に登場してトヨタの内実を語ってくれたすべての方々に、この場を借りてお礼申し上げます。

 2007年9月     林 克明

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